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浜坂簡易裁判所 昭和33年(ろ)4号 判決

被告人 西村計治 外一名

主文

被告人西村計治を罰金壱万円に被告人沼田富治を罰金五千円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金参百円を壱日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。

(但し端数は壱日とする。)

被告人等に対し、公職選挙法第二百五十二条第一項の裁判確定の日から五年間選挙権及び被選挙権を有しない旨の規定はこれを適用しない。

訴訟費用は全部被告人等の連帯負担とする。

被告人沼田富治に対する公訴事実中饗応を受けた点は無罪。

理由

罪となるべき事実

被告人等はいずれも昭和三十三年五月二十二日施行の衆議院議員総選挙に際し、兵庫県第五区から立候補した佐々木良作の運動者であるが、

第一、被告人西村計治は、右候補者に当選を得しめる目的をもつて饗応するものであることの情を知りながら、同年四月二十七日頃同県美方郡浜坂町公会堂において、同候補者の運動者吉森信治より、同候補者のため投票取纒等の選挙運動の依頼を受け、その報酬として一人当り約三百円余相当の酒食の饗応を受け、

第二、被告人等は共謀の上、右候補者に当選を得しめる目的をもつて、同年五月十八日頃右同町栃谷二八四番地北村広吉方において、同人外十三名の選挙人に対し、同候補者のため投票並びに投票取纒等の選挙運動を依頼し、その報酬として一人当り約百八十九円相当の酒食の饗応をなし

たものである。

証拠の標目〈省略〉

法令の適用

第一事実につき、公職選挙法第二百二十一条第一項第四号(罰金刑選択)

第二事実につき、刑法第六十条、公職選挙法第二百二十一条第一項第一号(罰金刑選択)

被告人西村に対する各事実につき、刑法第四十五条前段、第四十八条第二項 換刑労役場留置につき刑法第十八条

選挙権及び被選挙権につき、公職選挙法第二百五十二条第三項

訴訟費用につき刑事訴訟法第百八十一条第一項本文、第百八十二条

一部無罪の理由

被告人等に対する公訴事実中第一の訴因は、「被告人等は昭和三十三年五月二十二日施行の衆議院議員総選挙に際し、兵庫県第五区から立候補した佐々木良作の運動者であるが、右候補者に当選を得しめる目的をもつて饗応するものであることの情を知りながら、同候補者の立候補届出前である同年四月二十七日頃同県美方郡浜坂町公会堂において、同候補者の運動者吉森信治より同候補者のため投票並びに投票取纒等の選挙運動の依頼を受け、その報酬として一人当り二百四十八円相当の饗応を受けたものである。」というにあるが、

(一)  被告人西村計治に関する右訴因は、結局公職選挙法第百二十九条、第二百三十九条第一号の事前運動の罪となると同時に、同法第二百二十一条第一項第四号の受饗応罪にも触れるとして起訴されたものであり、検察事務官本田隆雄作成の証明書謄本、吉森信治の検事に対する供述調書(抄本)、被告人沼田の司法巡査に対する供述調書、同西村の司法警察員に対する各供述調書(昭和三十三年六月四日付及び同月八日付)の各記載を綜合すれば右事実(但し酒食の価格は約三百円余相当と認定)を認めることができる。然しながらここにいう選挙運動とは、その性質上他に働きかける能動的なものを意味し、他から働きかけられる受動的なものはこれを含まないと解すべきである。従つてある候補者の立候補届出前に饗応を受けたとしても、その饗応を受けたこと自体事前運動をしたことになるとはいえず、右にいわゆる事前運動の罪が成立しないと解すべきであるから、この点は無罪である。但し、前示のとおり右事前運動の罪は、右受饗応罪を想像的競合関係にありとして起訴されたものと認むべきであるから、主文において無罪の言渡をしない。

(二)  被告人沼田富治に関する前示訴因について知情の点につきその証明が十分でない。

よつて右事実は無罪であるから刑事訴訟法第三百三十六条により主文のとおりその言渡をする。

(裁判官 岩崎英夫)

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